「バイトの若い女の子は、皆、『渡辺さん』と言っていたのですか」と町会長。

「そうなんですよ。生徒でも若い女の子は、『渡辺さん』と言う人が多かったですね。」

「『渡辺さん』と言った方が親近感がありますね」と町会長。

「そうなんですよ。『渡辺さんみたいな人と結婚したい』と言った大学生の女の子もいました。」

「なるほど。他の生徒さんは、どうだったのですか」と町会長。

「『渡辺さん』派と『渡辺先生』派がいましたね。」

「生徒さんには、『渡辺さん』派と『渡辺先生』派がいたのですか」と町会長。

「そうなんですよ。例えば、東大の医学部に首席で入学したことが自慢の帝京大学の助教授が生徒にいたのですが、その人は『渡辺先生』と言っていました。難波先生は、僕と親しくなりたいらしく、年に1回ぐらいは、日帰りスキーに誘ってくれました。」

「難波先生は、渡辺さんに気を使っていたのですね」と町会長。

「難波先生は、医師なので、難波先生と呼ばれるのはあたりまえです。それで、僕のことを渡辺先生と呼んで親近感を持とうとしたのだと思います。」

「なるほど。お医者さんは、お互いに、先生と呼び合っていますね」と町会長。

「おっしゃる通りです。」

「他に、東大卒の生徒で『渡辺さん』という人はいなかったのですか」と町会長。

「電話で『1年間毎日ジャパンタイムズを読んで、1面は辞書なしで読めるようになったのですが、おたくの英会話スクールに入れば、英検の1級に合格できますか』と問い合わせてきた人がいました。」

「ジャパンタイムズの1面が辞書なしで読めるようになれば、英検の1級に合格できるのですか」と町会長。

「英語が聞こえなければ無理だと思いますが、とっさに『2面はどうですか』と聞いたのです。」

「そうしたら、ジャパンタイムズの1面が辞書なしで読めると言った人は、何と答えたのですか」と町会長。

「答えに窮したようで何も言わず、入会してしまいました。」

「その人が東京大学を卒業した人で、『渡辺さん』と呼んでいた人なのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。」


「『渡辺さん』と呼んでいた人の専門は、何だったのですか」と町会長。


「『マル経』の講師をしていると言っていました。」


「『マル経』と言いますと?」と町会長。


「『マルクス経済学』ですよ。」


「それでは、その人は東大で『マルクス経済学』を教えていたのですか」と町会長。

「当時は、そう思っていましたね。」

2020/10/22

※ ホスファチジルセリンが効いてきたせいか、当時、僕のことを『渡辺』と敬称抜きで呼んでいたやつがいることを思い出した。そいつは、『通産省の依頼でシカゴに先物の研究に行かなければならない』と言って入会してきた。

僕は、その頃、為替と相関性が強い東京ゴムの先物に夢中になっていて、8ビットマイコン用の先物の解析プログラムを作り、バイトの高校生に、毎日、先物情報を打ち込ませていた。そして、解析結果がブラウン管ディスプレーやプリンターで印刷してグラフとして見ることができるようになっていた。僕は面白いやつが来たと思って、その場で8ビットマイコンを操作して解析グラフを見せた。

すると、驚いたことに、『僕も一橋大学の大型のコンピューターを使って同じ研究をしている』と言ったのだ。当時、一橋大学で使っていたのは、真空管を使った巨大なコンピューターだ。8ビットマイコンで同じことをやっているやつが日本にいることに気がついて驚いたに違いない。

『同じ研究をしている』と言ったので、新宿の紀伊国屋まで行って見つけた洋書を見せた。なんと、そいつも『同じ本を参考にしている』と言ったのだ。

一橋大学の講師をしているというので、当時は最新の学説だったサプライサイド経済学と期待インフレ率に話を向けてみた。そうしたら、少し話しただけで、そいつは『そこまで分かっていれば十分だ』と言った。

その時は、小山が『そこまで分かっていれば十分だ』と言った意味が分かっていなかった。今なら、日本の経済学の本質は、自分の理論を打ち立てようとするところにあるのではなく、米国のユダヤ系が作った最新の経済学の理論を理解し、日本の経済に適用しようとするための学問だということが分かっているが、当時は分かっていなかった。大学の研究者は、どこまで、米国のユダヤ系が作った最新の経済学の理論を理解しているかが問題なのだ。今なら、『そこまで分かっていれば十分だ』と言った意味が理解できる。

小山とは長い付き合いになったが、それ以後、経済学について議論したことはなかった。仕事が終わってから八王子駅に近い密談がしやすそうなレストランで話すことが多かったが、相談があるという時はいつも女の話だった。

<イノシシ後記16>
頭をさらにひねっているうちに、信玄雀が罠風に設置した防鳥ネットに異常な反応を示したことを思い出した。

イノシシ捕獲のための罠風のものが作れないだろうかと思って、ウェブを画像検索すると簡単に作れそうな罠が出てきた。箱罠と表記されていた。

体力が上がったせいか、正月に茶の間の押し入れを整理しようと思い立った。卓球台の製作の記事で紹介したワイヤー キューブ シェルフで、縦2横4で合計8個の立方体がくっついたような形にした。そして、それぞれの立方体の中央を水平方向にパネルで区切って、16個の直方体がくっついたような形にした。16個の収納スペースができたのだ。このままだと小さなものを置くのに不安があるので、アマゾン送ってくるダンボール箱をパネルと同じ大きさに切って、それぞれの収納スペースの下部に敷いた。押入れの中にあったものを収納後に見た息子が感動したほどきれいにできた。

ウェブで表示されているのとは違った形を作ったので、ワイヤー キューブ シェルフパネルが数枚残っていた。パネルの1辺の大きさが箱罠の入り口の大きさと同じぐらいなので、にせものの罠が作れると思った。

翌日、5枚のパネルで正方形の箱を作った。父イノシシ2世に壊されないように針金でしっかり止めて作った。箱罠は、長さが3倍位あるので、このままだと罠には見えないが、パネルで作った箱の8割ほどを孟宗竹の下に埋め込み、2割ほど見えるようにすれば、立派な罠に見えるはずだ。<続く>

2023/10/5